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ポジショニング 戦術解説

シングルスにおける「合理的待機位置」とは?(ポジショニング論)

投稿日:2019年1月28日  更新日:

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Photo by Marianne Bevis

これから、数回に渡って、テニスの「戦術」についてのお話をしていきたいと思います。

テニスの戦術を理解するためには、まず、「プレーヤーは、プレー中に、コート上のどこに立つべきか」というポジショニングについて理解する必要があります。

プレー中は、相手のポジションや状況によって、「今は、ここに立つべき」という理想的なポジション(これを「合理的待機位置」と呼びます。)があります。

テニスの戦術を考える際には、いかに自分が合理的待機位置を取るか、また、いかに相手に合理的待機位置を取らせないか、ということを考える必要があります。

合理的待機位置とは

合理的待機位置とは、「プレーヤーが、そこで待機することが合理的であると考えられる位置(ポジション)」ですが、もう少し分かりやすく表現すると、「プレーヤーにとって、相手のボールを返球できる可能性が最も高くなる立ち位置(ポジション)」です。

この「合理的待機位置」という言葉は、日本テニス協会が編集している「テニス指導教本*1」の中で使われている言葉ですが、他に丁度良い言葉が思い浮かびませんので、このブログでも、この言葉を用いることにします。

では、具体的に、合理的待機位置がどこにあるのかを見ていきましょう。

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図1は、相手がアドバンテージサイドのサイドライン付近からボールを打ってくる場合における合理的待機位置を、図2は、相手がセンターからボールを打ってくる場合における合理的待機位置を、それぞれ示すものです。

合理的待機位置は、「相手がボールを飛ばすことのできる範囲」における両端の線が作る角の二等分線上にあります。

上の図で説明すると、黒色の点線上に合理的待機位置があることになります。

つまり、黒色の点線上に立っていれば、2本ある紫色の線のどちらの線上にあるボールにも届く可能性が高いということです。

相手がアドバンテージサイドのサイドライン付近から打ってくる場合(図1)、自分がネットの近くにいるときは、センターラインの少し右側が合理的待機位置であり、自分がベースライン付近にいるときは、センターマークの左側が合理的待機位置になります。

また、相手がセンターから打ってくる場合(図2)は、自分がネットの近くにいるときは、センターライン上が合理的待機位置であり、自分がベースライン付近にいるときは、センターマークまたはその延長線上が合理的待機位置ということになります。

ただ、合理的待機位置は、自分のプレースタイルや相手の状況(しっかりと打つ準備ができているか否か)等によって前後方向に違いが生じるということを知っておかなければなりません。

例えば、伊達公子さんのように、相手のボールを早いタイミングで返球するプレースタイルであれば、それと異なるプレースタイルの選手と比較して、合理的待機位置は、前の方になります。

また、例えば、自分がベースライン付近にいるとき、相手が浅いボールを強打しようとしている状況であれば、合理的待機位置はベースラインの後ろの方になりますし、逆に、自分が会心のショットを放ち、相手の体勢が崩れている状況であれば、ベースラインの内側が合理的待機位置となることもあるでしょう。

合理的待機位置との関係で導き出される理想的なコース

自分の合理的待機位置は、相手のポジション(立ち位置)によって決まります。

相手のポジションは、自分がどこ(どのコース)にボールを打ったかによって決まります。

したがって、自分の合理的待機位置は、自分が相手コートのどこにボールを打つのかによって変わってくることになります。

このことから、「自分が合理的待機位置を取りやすくするために狙うべきコース」というものを考えることができます。

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図3、図4のいずれにおいても、相手がストレート方向(アドバンテージサイド)にいる場合は黒色の点線上に合理的待機位置があり、相手がクロス方向(デュースサイド)にいる場合は赤色の点線上に合理的待機位置があります。

アプローチショットのコース

上の図3を見ていただくとお分かりになるように、自分がサービスライン付近から、アプローチショットを打ってネットに出るとき、アプローチショットをストレートに打つ場合と、それをクロスに打つ場合を比較すると、ストレートに打った場合の方が、合理的待機位置までの移動距離が短くなります。

したがって、ストレートに打った場合の方が、アプローチショットの後に、合理的待機位置を取れる確率が高くなります。

そのため、アプローチショットはストレートに打つことが定石とされています。

コートの外に追い出された後のリカバリー時に打つショットのコース

また、上の図4を見ていただくとお分かりになるように、自分がサイドラインの外に追い出されたとき、次のショットをストレートに打つ場合とクロスに打つ場合を比較すると、クロスに打った場合の方が、合理的待機位置までの移動距離が短くなります。

したがって、クロスに打った場合の方が、合理的待機位置に戻ることのできる可能性が高くなります。

そのため、サイドラインの外に追い出されたときは、クロスに返球することが無難であると考えることができます。

合理的待機位置に立たない例外的な場合

合理的待機位置が、相手のボールを最も返球しやすい位置である以上、通常は、そこに立つべきですが、あえて合理的待機位置に立たない、という例外的な場合も存在します。

相手のボールが来る場所を予測できる場合

合理的待機位置は、相手が、右または左のどちらにも打ってくる可能性があることを前提にしています。

相手が、右または左のどちらか一方に打ってくるだろうと予測できる場合は、合理的待機位置に立つのではなく、あえて右または左のどちらかに寄って立つことも有益です。

例えば、「自分の打ったボールに威力があり、さらに、相手は走ってボールを追いかけていて、準備が十分ではないため、相手はラケットを振り遅れてクロスには返球できないだろう」と予測できる場合は、ストレート方向に少し寄った位置に立つことができます。

また、相手の癖(くせ)として、「回り込んでフォアハンドストロークを打つ時は、逆クロスが多い」という場合は、少し逆クロス方向に寄った位置に立つということもできるでしょう。

相手にフェイントをかける場合

相手がボールを打つ前に、あえて合理的待機位置から外れた所に立つ、というフェイントをかけることには、一定の効果が期待できます。

このフェイントの目的は、「自分のコート上に、意図的に空いているスペースを作り、相手に、そのスペースを狙ってボールを打たせる」というところにあります。

まとめ

プレーヤーは、基本的には、ボールを打った後は、いつも合理的待機位置に戻ることを心がける必要があります。

あなたのコーチが、ラリー中に「打ったら、真ん中に戻れ!」と言ったら、それは、コートのど真ん中に戻れ、ということではなく「合理的待機位置に戻れ!」という意味だと解釈してよいでしょう。

そして、あえて合理的待機位置から外れた所にポジションを取ることにメリットがある場合もあることを知っておきましょう。

次回は、いわゆる「オープンコート」について解説していきます。

*1:公益財団法人日本テニス協会『テニス指導教本Ⅰ』(大修館書店、2015年)

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