今回は、テニスの戦術に関するお話の第2回目です。
第1回目の前回は、合理的待機位置についてのお話をしました。
まだ前回の記事を読まれていない方は、まずは、そちらの記事をご覧になってください。
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シングルスにおける「合理的待機位置」とは?(ポジショニング論)
Photo by Marianne Bevis これから、数回に渡って、テニスの「戦術」についてのお話をしていきたいと思 ...
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さて、今回は、「オープンコート」についてのお話です。
皆さんも、「オープンコートを作って、そこにボールを打ってポイントを取るんだ!」という話を耳にしたことがあると思います。
このように、テニスの戦術を説明する際に、「オープンコート」という概念を利用することには、説明を分かりやすくさせるというメリットがあります。
この記事では、その「オープンコート」について解説をします。
オープンコートとは
まず、「オープンコート」を定義しておきます。
プレーヤーAとプレーヤーBの対戦において、プレーヤーAのコート上のオープンコートとは、プレーヤーBがボールを飛ばすことのできる範囲の中で、プレーヤーAの守備範囲を超えるスペースをいいます。
このオープンコートには、プレーヤーの左右方向に生じるオープンコートと、プレーヤーの前後方向に生じるオープンコートがあり、便宜上この2つを分けて考えることにします。
左右方向に生じるオープンコート
最初に、プレーヤーの左右方向に生じるオープンコートについて説明します。
先ほど定義したように、プレーヤーAのコートに生じるオープンコートは、プレーヤーBがボールを飛ばすことのできる範囲の中にありますが、その範囲は、プレーヤーBの立ち位置によって変わります。
そして、プレーヤーBの立ち位置は、プレーヤーAが打ったボールのコースによって決まります。
したがって、プレーヤーAのコートに生じるオープンコートの範囲は、プレーヤーAがどこにボールを返球するかによって決まることになります。
それでは、オープンコートの具体例を見ていきましょう。
<図1>
ここでは、上の図1(a)に示すように、プレーヤーBが、アングルショットを打ち、それによって、プレーヤーAがサイドラインの外に出された、というケースを考えます。
プレーヤーBのアングルショットに対して、プレーヤーAが①ストレート、②センター、③クロスのそれぞれのコースに返球した場合(図1(b)参照。)における、プレーヤーAのコート上に生じるオープンコートを見ていきましょう。
①プレーヤーAがストレートに返球した場合
<図2>
上の図の赤色に塗られたエリアが、オープンコートです(もっとも、このオープンコートの大きさは、両プレーヤーの技術や体力によって変化するものですので、これは、あくまでも1つの例示です。また、従来、オープンコートは、サイドラインとベースラインの内側における範囲だけが考えられてきましたが、ボールは地面にバウンドした後、サイドラインやベースラインの外まで伸びていく推進力を持つということを考慮すると、サイドラインやベースラインの外側もオープンコートに含めて考えなければ、オープンコートの実体を示すことにならないでしょう。)。
図2(a)は、プレーヤーAがストレートに向けてボールを打った直後のオープンコートを示しています。その後、プレーヤーAが合理的待機位置に向かってリカバリーを行い、サイドラインの内側まで戻った時点でのオープンコートを示すのが図2(b)です(図中の黒色の点線は、合理的待機位置を示しています。)。
なお、プレーヤーAは、「プレーヤーAとプレーヤーBの打点とを結ぶ直線」を基準として、そこから左右に最大14度ずつの角度(プレーヤーBの打点を頂点と考えます。)で飛んでいくボールを返球可能であると仮定して作図しています(図中の青色で塗られた角の大きさが14度であり、その角を成す直線で囲まれた範囲が、プレーヤーAの守備範囲です。)。これについては、以下のすべての図で同様です。
②プレーヤーAがセンターに返球した場合
<図3>
図3(a)は、プレーヤーAがセンターに向けてボールを打った直後のオープンコートを示しています。その後、プレーヤーAが合理的待機位置に向かってリカバリーを行い、サイドラインの内側まで戻った時点でのオープンコートを示すのが図3(b)です。
③プレーヤーAがクロスに返球した場合
<図4>
図4(a)は、プレーヤーAがクロスに向けてボールを打った直後のオープンコートを示しています。その後、プレーヤーAが合理的待機位置に向かってリカバリーを行い、サイドラインの内側まで戻った時点でのオープンコートを示すのが図4(b)です。
小括
上の図2~図4を比較していただくと分かるように、プレーヤーAがストレートに返球したときは、オープンコートが最も大きくなり、クロスに返球したときは、オープンコートが最も小さくなります。
ここで思い出していただきたいのが、前回の合理的待機位置についてのお話です。
プレーヤーAは、ストレートに打ち返す場合よりも、クロスに打ち返す場合の方が、合理的待機位置までの距離が短くなります。
そのため、前回、プレーヤーがサイドラインの外に追い出されたときは、クロスに返球するのが無難だ、というお話をさせていただきました。
合理的待機位置までの距離が短い、ということは、すなわち、自分のコートに生じるオープンコートが小さくなる、ということなのです。
したがって、合理的待機位置とは、「自分のコートに生じるオープンコートを最も小さくするポジション(立ち位置)」であると説明することもできます。
このように、「合理的待機位置」と「左右方向に生じるオープンコート」は、本質的には同じであることを別の視点から説明していると言うことができます。
前後方向に生じるオープンコート
プレーヤーの前後方向に生じるオープンコートは、相手がドロップショットやロブを打とうとしている場面で問題となります。
ドロップショットやロブを返球することができるかどうかは、そのボールの推進力よりも、それを返球しようとするプレーヤーのスプリント能力にかかっていると考えることができるので、オープンコートについても、次の図5のように示すことが適当であると考えます。
<図5>
図5(a)は、プレーヤーAがプレーヤーBに対してロブボレーを打とうとしている場面での、プレーヤーBのコート上でのオープンコートを示しています。
また、図5(b)は、プレーヤーAがプレーヤーBに対してドロップボレー(またはアングルボレー)を打とうとしている場面での、オープンコートを示しています。
プレーヤーAは、プレーヤーBのコート上のどこにでも、ロブボレーやドロップボレーを打つことができます。したがって、プレーヤーAがボールを飛ばすことのできる範囲は、プレーヤーBのコート全て、と言ってよいでしょう(なお、ロブやドロップショットは、他のショットと比較して、ボールの推進力が小さいので、サイドラインやベースラインの外の範囲については考えないことにします。左右方向のオープンコートに関しては、ボールのバウンド後の推進力を考慮して、サイドラインやベースラインの外の範囲もオープンコートに含めています。)。
プレーヤーBの守備範囲は、プレーヤーBのスプリント(ダッシュ)によってカバーできる範囲であり、図中では、灰色の扇形で示しています。
その守備範囲を超える、赤紫色のエリアが、オープンコートです。
図5(a)の例を考えると、プレーヤーAは、プレーヤーBのコートのアドバンテージサイドにロブボレーを打てば、得点できる可能性が高いと言えます。
また、図5(b)の例を考えると、プレーヤーAは、プレーヤーBのコートのアドバンテージサイドのネット前にドロップボレー(またはアングルボレー)を打てば、得点できる可能性が高くなります。
まとめ
左右方向に生じるオープンコートは、プレーヤー(図1~4では、プレーヤーA)が、相手コートのどこに返球するかによって変わってくる、ということを理解しておくことが重要です。
次の記事から、シングルスの具体的な戦術について解説していきますので、是非ご覧になってみてください。
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