今回は、グラウンドストロークを打つ際の「スタンス(足の踏み込み方)」について、解説をしていきたいと思います。
この「スタンス」についても、意外と誤解されている方が多いのではないかと思っています。「スタンス」について正しく理解することは、ボールをより強く、より効率的に打つことにつながります。
4つのスタンス(概要)
テニスでグラウンドストロークを打つ際のスタンスは、クローズドスタンス( closed stance )、スクエアスタンス( square stance )、セミオープンスタンス( semi open stance )、オープンスタンス( open stance )の4つに分類することができます。
右利きの人が、フォアハンドストロークを打つ場合のスタンスを図で示すと、以下のようになります。
なお、この記事では、右利きの人がフォアハンドストロークを打つ場合を想定して、スタンスの解説をしていきます。
クローズドスタンス、スクエアスタンス、セミオープンスタンス
これらのスタンスのうち、クローズドスタンス、スクエアスタンス、セミオープンスタンスの3つのスタンスでは、いずれも、右足をセットした後、左足を前方に踏み込むことになります。この3つのスタンスは、左足をどの方向に踏み込むかによって分けられるものであって、本質的な違いはありません。左足が右足よりも前(右)に出るように踏み込むのが、クローズドスタンスです。左足が右足と並ぶように踏み込むのが、スクエアスタンスです。そして、左足が右足よりも後ろ(左)になるように踏み込むのが、セミオープンスタンスです。
この3つのスタンスでは、打球時の軸足(体を支える足)が左足となります。
オープンスタンス
これに対して、オープンスタンスは、右足をセットした後に、左足を前に踏み込むことなくラケットのスイングを行うスタンスで、基本的には、打球時の軸足が右足となります。
ただし、回り込んでフォアハンドストロークを打つ場合のように、右足をセットした後に、左足を左(右足の後ろ)にセットしてオープンスタンスを作る場合は、例外的に、打球時の軸足が左足になることや両足になることがあります。
4つのスタンスの比較
それでは、以上に挙げた4つのスタンスの特徴について、いくつかの観点から比較しながら見ていきましょう。
なお、先ほども申し上げたように、クローズドスタンス、スクエアスタンス、セミオープンスタンスの3つは、本質的な違いがありませんので、「スクエアスタンス等」とまとめて表記することにします。
1.打球動作のメカニズム
スクエアスタンス等は、並進運動と回転運動で打つ
スクエアスタンス等では、左足を前方に踏み込むことによって、右足から左足への体重移動が生じます。
この「体重移動」という言葉は、分かるようで、よく分からない言葉かもしれません。ちなみに、この「体重移動」という表現は、日本独自のものではなく、海外でも、「weight transfer」という同様の表現が使われています。
ここでの「体重移動」とは、右足に体重をかけた状態から、左足に体重をかけた状態に移行すること、を意味します。
このような右足から左足への体重移動の際に、体が後ろから前へ並進運動*¹することになります。この並進運動が、左足を介して、骨盤より上の上半身の回転運動*²につながることが、スクエアスタンス等における理想的な運動連鎖です。
*¹*²並進運動とは、物体におけるすべての点が平行移動する運動のことです。回転運動とは、ある回転軸の周りを回る運動のことです。人の動作は、すべて、この並進運動と回転運動に分解することができます。
並進運動から回転運動への連鎖がスムーズにできていれば、大きな筋力を発揮することなく、楽に回転運動を行うことができるのです。これが、スクエアスタンス等の最大のメリットと言えるでしょう。
このように、スクエアスタンス等は、並進運動および回転運動で打つものと説明することができます。
なお、極端なクローズドスタンスになると、体の回転運動を十分に使うことができなくなるため、フォアハンドストロークで極端なクローズドスタンスが使われることは、今日では、ほとんどありません。
ここで、フェデラーのクローズドスタンスのバックハンドストロークを見ておきましょう。動画の最後にあるスローモーションを見ていただければ、並進運動がスムーズに回転運動につなげられていることを感じていただけると思います。
オープンスタンスは、回転運動で打つ
これに対して、オープンスタンスでは、基本的には、右足を横に踏み込み、そのまま右足を軸足としてスイングを行います。
したがって、オープンスタンスでは、後ろから前への並進運動はなく、オープンスタンスは、基本的には、回転運動で打つものと説明することができます。
※なお、オープンスタンスでは、左足から右足への体重移動、したがって左から右への並進運動が生じます。しかし、この並進運動は、打球動作における運動連鎖の一部ではなく、そのエネルギーは、体をひねるために使われるという点で、スクエアスタンス等における並進運動とは異なります。
2.打ちやすい球種
スクエアスタンス等では、左足が軸足となりますので、スイング中に左の股関節を支点として骨盤が回転することによって、骨盤の右側が前に出てきます。そのため、スクエアスタンス等では、ラケットを前に押し出すことのできる距離が長く、フラット系のボールを打ちやすくなります。
これに対して、オープンスタンスでは、いわゆるワイパースイングを行いやすく、そのため、トップスピンをかけたボールを打ちやすくなります。
3.打球動作に要する時間
オープンスタンスでは、右足を踏み込んだ後、ただちにフォワードスイングを行うことができますので、スクエアスタンス等と比べて、打球動作に要する時間が短いことになります。
これが、オープンスタンスの最大のメリットと言えるでしょう。
4.リカバリーに要する時間
スクエアスタンス等であれば、打球後に右足を前に出してからリカバリーの動作が始まるのに対して、オープンスタンスでは、打球後、直ちにリカバリーの動作を行うことができます。そのため、一般的には、オープンスタンスの方が、スクエアスタンス等よりも、リカバリーに要する時間が短いと言うことができます。
5.リーチの長さ
フォアハンドストロークを打つ場合は、スタンスによるリーチの違いは、ほとんどありません。バックハンドストロークをダブルハンド(両手)で打つ場合も、同様です。
バックハンドストロークをシングルハンド(片手)で打つ場合は、クローズドスタンスを用いることで、最もリーチが長くなります。
スクエアスタンス等は時代遅れ?
なお、スクエアスタンス等は体重移動で打つもの、オープンスタンスは回転運動で打つものであるとした上で、「フォアハンドでは、体重移動で打つよりも、回転運動で打つほうが強いボールが打てるから、オープンスタンスで打つ方が良い。スクエアスタンス等は時代遅れ。」と解説されることがあります。
確かに、世界のトッププロのフォアハンドストロークにおけるスタンスを見てみると、1980年代の前半くらいまでは、スクエアスタンスのように足を前に踏み込むスタンスで打つことが多かったのに対して、今日では、足を横に踏み込むオープンスタンスで打つことが多くなっています。
しかし、これは、ラリー中のボールのスピードが上がり、足を前に踏み込む時間的な余裕が少なくなったことや、トップスピンの需要が増えたことにより、オープンスタンスの使用頻度が高くなったということであり、オープンスタンスの方が強いボールを打てるということではありません。
そして、これまで説明してきたように、スクエアスタンス等も、最終的には体の回転運動(すなわち、体のひねり戻し)によってラケットが振られるという点ではオープンスタンスと変わりがなく、前記のような解説は誤りであると言わざるを得ません。
世界のトッププロは、今も昔も、4つのスタンス全てを使っています。
まとめ
この記事では、グラウンドストロークを打つ際の4つのスタンスについて解説をしてきました。
効率的なプレーをするためには、それぞれのスタンスの特徴を理解した上で、状況に応じた適切なスタンスを用いることが必要です。
そして、いずれのスタンスを用いる場合であっても、体の回転運動(体のひねり戻し)が大切だということを覚えておいてください。