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シングルスにおいて、最も安全なコースはどこ?『センターセオリー』と『クロスセオリー』

投稿日:2019年3月26日  更新日:

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今回は、シングルスの戦術に関するお話の第4回目となります。

今回は、シングルスにおいて「最も安全なコース(ボールを飛ばす方向)」についてお話をしていきたいと思います。

前回(第3回目)は、シングルスにおける「攻撃的な戦術」についてお話をしましたので、まだご覧になっていない方は、ご覧になってみてください。

シングルスにおける攻撃的戦術

今回は、シングルスの戦術に関するお話の第3回目です。 第1回目では「合理的待機位置」について、第2回目では「オープンコー ...

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さて、シングルスにおいて、「最も安全なコース」は、どこでしょうか?

テニスをやられている方や、テニスファンの方は、「センターセオリー」という言葉を聞いたことがあると思います。

「センター」、つまり相手のコートの真ん中に打っておけば、サイドアウトはしないから、その意味で安全である、ということは理解しやすいと思います。

他方で、「シングルスでは、クロスに打つのが基本だよ。ストレートに打つよりも、クロスに打つ方が安全だからね。」というコーチからのアドバイスを聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか(このように、クロスに打つことを基本とする考え方をクロスセオリーと呼ぶことにしましょう。)。

そうすると、「あれ?センターとクロスと、どっちが安全なの?」という疑問が出てきます。

この記事では、これまで、テニス界できちんと説明をされてこなかったこの疑問について、解説をしていきます。

センターセオリーについて

まず、センターセオリーについて説明をします。

シングルスでは、相手コートの中央、すなわちセンターを狙ってボールを打つことが安全であることから、安全を図りたいときはセンターを狙って打つべきと考えられています(下の図1参照)。

この考えを、日本のテニス界では、「センターセオリー」と呼んでいます。

※ただし、亜細亜大学の堀内教授は、「コートのラインの一定程度内側を狙って打つこと」なども「センターセオリー」と呼んでいらっしゃいますので*1、各々の文脈の中で「センターセオリー」の意味を理解することが必要です。また、英語の「セオリー(theory)」は、「理論」という意味であって、日本人が意図している「定石」というような意味はありませんので、注意してください

なぜ相手コートのセンターを狙ってボールを打つことが安全かというと、

①サイドアウトの危険がなく

②相手がセンターからボールを打つ場合は、サイドから打つ場合と比較して、角度をつけて打つことができないので、相手の次のショットに追いついて返球できる可能性が高く(走る距離が短くなるから。)、また、相手の次のショットによって自分がコートの外に追い出される可能性が低い(下の図2参照)

からです。

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また、自分がセンターにいるときに、相手コートのセンターを狙って打てば、ネットの高さが最も低いコースにボールが飛んでいくことになるので、ネットミスが少なくなるというメリットもあります。

このようなことから、センターというコースは、安全なコースであり、「防御を固めたいときはセンターに打て!」と言われることがあります。

クロスセオリーについて

それでは、次に、クロスに打つメリット、すなわち、安全と言われる理由を考えてみましょう。

まず、過去の記事でお話ししてきたように、①クロスに打つことによって、合理的待機位置までの距離が短くなる、というメリットがあります。

この意味がよく分からないという方は、こちら⇩の記事をご覧になってください。

シングルスにおける「合理的待機位置」とは?(ポジショニング論)

これから、数回に渡って、テニスの「戦術」についてのお話をしていきたいと思います。 テニスの戦術を理解するためには、まず、 ...

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そして、②クロスに打てば、ストレートに打った場合と比較して、打点からベースラインまでの距離が長くなるので、バックアウトをしにくくなる、ということです。

なお、サイドからボールを打つ場合は、クロスが、ネットの最も低い所を通るコースとなりますので、ネットミスをしにくくなる、ということも言えます。

センターセオリー VS クロスセオリー

さて、それでは、この2つのセオリーのどちらに従うべきなのかについて、場合分けをして解説をしていきます。

自分がボールを返球した後に、センターまで戻ることができる(センターまで戻る時間的な余裕がある)場合と、センターまで戻ることができない(センターまで戻る時間的な余裕がない)場合を分けて考えます。

センターまで戻ることができない場合

まず、ボールを返球した後に、センターまで戻る時間的余裕がない場合は、どうでしょうか。

例えば、相手にアングルショットを打たれ、シングルスサイドラインの外まで完全に出されてしまったような場合です。

センターまで戻ることができない、ということは、仮に、自分がセンターセオリーに従って、ボールをセンターに返球したとき、合理的待機位置まで戻ることができないということを意味します。

この場合は、以下のような理由から、クロスセオリーに従って、クロスに返球すべきだと考えます。

自分が合理的待機位置まで戻ることができないということは、オープンコートができてしまっているということであり、そのオープンコートにボールを打たれることによって直ちに失点する可能性が高くなります。

確かに、クロスを狙ってボールを打った場合、センターを狙った場合と比較して、サイドアウトの危険が増えますが、サイドラインの「ライン際」ではなく、やや内側を狙って打つことで、その危険を最小限に抑えることは可能です。また、クロスに返球した場合、相手は角度をつけて次のショットを打ってくる可能性がありますが、自分が合理的待機位置にいる限り、それによって直ちに失点する確率は高くありません。

したがって、センターセオリーのメリットを享受することよりも、合理的待機位置に戻ることを優先するべきだと考えます。

以上のことから、ボールの返球後にセンターに戻ることができない場合は、合理的待機位置に戻るために、クロスに返球するべきです。

なお、自分がサイドラインの外まで追い出された場合、滞空時間の長いスライスショットやムーンボールを使って、センターまで戻る時間を稼ぐという方法もありますが、それを相手にノーバウンドで返球され、時間稼ぎが失敗に終わる可能性もありますので、やはり、クロスに打つ方が、より安全であると言えるでしょう。

また、クロスに角度をつければつけるほど、合理的待機位置は近くなるわけですが、当然サイドアウトのリスクが高くなりますので、合理的待機位置に戻るために必要な限度の角度でクロスを狙う(すなわち、できる限りセンター寄りのクロスを狙う)というのが理想であると考えます。このような意味では、センターセオリーとクロスセオリーは矛盾するものではなく、融合可能なものであると言えます。

センターまで戻ることができる場合

自分がボールを返球した後に、センターまで戻る時間的余裕がある場合は、合理的待機位置までの距離を考える必要はありません。

そのため、この場合は、センターセオリーに従って、センターに返球した方が、クロスに返球するよりもメリットが大きく、より安全であると考えます。

確かに、クロスに返球をすれば、バックアウトの危険が少なくなりますが、その危険がゼロになるわけではありません。そして、当然、サイドアウトの危険があります。

センターに返球した場合は、サイドアウトの危険がほぼゼロになりますので、このメリットは大きいと言えます。さらに、相手が次のショットで角度をつけにくい、ということも、やはり大きなメリットです。

トッププロによる実例(守備的戦術)

防御の局面においては、相手からの攻撃をしのぐために、これらのセオリーに従って、センターまたはクロスにボールを集めるというのが、効果的な戦術となります。

それでは、このような戦術を用いた実例を見てみましょう。


Hot Shot: Chung Scrambles For Forehand Passing Shot In Milan 2017

ここでの主役は、将来を期待されている韓国のチョン・ヒョンです。

チョン・ヒョンの相手は、ロシアのアンドレイ・ルブレフです。

このポイントは、チョン・ヒョンのセカンドサーブから始まりますが、ルブレフからの強烈なリターンが来たため、チョン・ヒョンは、いきなり劣勢に立たされます。

そこで、チョン・ヒョンは、第3打(0:05)をセンターに返球します(センターセオリー)。

その後も、ルブレフからの攻撃が続きますが、チョン・ヒョンは、第5打(0:07~0:08)と第7打(0:10~0:11)をセンター寄りのクロスに返球し、防御を固めています(クロスセオリー+センターセオリー)。第5打は、センターに返球しても良かったと思いますが、第7打は、シングルスサイドラインの外まで出されてからのショットですので、合理的待機位置に戻るためにクロスに返球すべきであり、チョン・ヒョンは正しい選択をしたと言えます(それでも、合理的待機位置までは戻れていないのですが。)。

そして、第9打(0:13)も、センターに返球します(センターセオリー)。

第11打(0:15~0:16)のバックハンドスライスもセンターに返球していますね(センターセオリー)。

ボレーに関しても、センターから角度をつけて打つことは難しいですから、ルブレフの最後のハイボレーもチョン・ヒョンに拾われて、パッシングショットを決められてしまいました。

ルブレフにとっては、第8打をチョン・ヒョンのオープンコート(ストレート)にコントロールできなかったことがミスだったと言えます。また、第12打を、ハイボレーではなく、スマッシュにしていれば、得点することができたかもしれません。

ルブレフのセンターからサイドへの攻撃も非常に素晴らしかったのですが、センターセオリーとクロスセオリーに従ったチョン・ヒョンの守備が光ったポイントでした。

それにしても、チョン・ヒョンのフットワーク、脚力が素晴らしいですね。フットワークと脚力の重要性を再認識させてくれるプレーでした。

まとめ

この記事の冒頭で記した「センターとクロスと、どっちが安全なの?」という疑問の答えは、「ボールを打った後にセンターに戻れる場合は、センターが安全。センターに戻れない場合は、クロスが安全。」ということになります。

もっとも、先ほどもお話ししたように、クロスに返球する場合であっても、センターセオリーの背景にある考え方を取り入れて、センター寄りのクロスに返球するということは可能です(センターセオリーとクロスセオリーの融合)。

また、今回は、「センターかクロスか」という視点で「最も安全なコース」というものを考えてきましたが、例えば、相手がバックハンドが苦手な選手であれば、相手のバックハンド側に打つのが最も安全だ、と言えることもあるでしょう。自分の目の前にいる対戦相手との関係において「最も安全なコース」を考えることも忘れてはいけません。

そして、トッププロによる実例として、防御の局面における、センターセオリーとクロスセオリーに従ったプレーをご紹介しましたが、これらのセオリーは、必ずしも防御の局面においてのみ妥当するものではなく、攻撃とも防御とも言い切れない、ニュートラルな局面においても妥当するものであるということは、お伝えしておきたいと思います。相手の出方をうかがうために、とりあえずセンターに返球する、ということはプロの世界でも実際によくあります。

今回のお話は、以上となります。最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

*1:堀内昌一『テニス 丸ごと一冊 戦略と戦術①』(ベースボール・マガジン社、2012年)78ページ

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