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スプリットステップの目的は、何?どうして必要なの?『パワーポジション』と『3種類のスプリットステップ』

投稿日:2018年11月25日  更新日:

Photo by Marianne Bevis

今回は、テニスのあらゆる場面で使われるスプリットステップについてのお話です。

スプリットステップとは、テニスをやられている方ならご存知だと思いますが、相手がボールを打つ直前に、自分が行うジャンプのことです。

さて、このスプリットステップですが、なぜ行うのでしょうか。

その理由を生徒に説明する際は、「スプリットステップをした方が、素早く動き出せるからだよ」と簡潔に説明していますが、この記事では、もう少し詳しく解説していきたいと思います。

パワーポジションについて

スプリットステップの必要性を理解するためには、まず「パワーポジション」について知っておかなければなりません。

パワーポジションとは、静止した状態から、前後左右、あらゆる方向に素早く動き出すことのできる姿勢のことを言います。

「静止した状態から、前後左右に最も素早く動き出すことができる」という点を突き詰めていくと、パワーポジションは1つしか存在しないことになります。

ですが、動きのある(すなわち、静止していない状態であることが多い)スポーツの中では、それぞれのスポーツの特性に応じて、あるいは、プレー中の局面に応じて、パワーポジションを微妙に変化させ、その時々に適した姿勢をとる必要があります。

今日の日本では、そのように、スポーツの種類や、局面によって微妙に異なる点があったとしても、それら全てを、パワーポジションと呼ぶことが多くなっています。

テニスにおけるパワーポジションは、基本的には、背筋を伸ばし、両足を肩幅よりも少し広く開き、軽く膝を曲げた姿勢です。

下の写真のナダルがとっている姿勢が、パワーポジションの一例です。

Rafael Nadal

プレー中は、基本的には、このような姿勢を維持することが必要です。

スプリットステップを行う目的・理由

結論

パワーポジションができていれば、前後左右に素早く動き出すことができるのですが、このパワーポジションの効力をさらに高めるのが、スプリットステップなのです

スプリットステップを行うと、当然、体が宙に浮き、そこから地面に着地することになるわけですが、その着地の「反動」を使うことで、より強く地面を蹴ることができます。

より強く地面を蹴ることができるということは、すなわち、地面から、より大きな反力(いわゆる地面反力)を得ることができるということであり、より素早い動き出しが可能になるということです。

つまり、スプリットステップは、より強く地面を蹴って、すなわち、より大きな地面反力を得て、パワーポジションからの動き出しを、より素早く行うためのステップであると言うことができます。

反動(伸張‐短縮サイクル)について

少し話がそれますが、「反動を使うと、どうして地面を強く蹴ることができるの?」という疑問に答えるため、この「反動」について、簡単に説明をしておきます。

このような反動を利用する運動のことを、専門的な用語では、「伸張‐短縮サイクル(Stretch-Shortening Cycle)」運動と言います。

反動を利用すると、それを利用しないときと比較して、より大きなパワーを発揮することができることから、テニスに限らず、あらゆるスポーツの様々な場面で、反動が利用されていることが知られています。

例えば、「縄跳び」は、着地の反動を利用したジャンプを繰り返す運動であって、典型的な伸張‐短縮サイクル運動と言うことができます。軽々と、簡単そうに縄跳びをすることができる人は、着地の反動を上手く利用できていると推測できます。

反動を利用すると、なぜ大きなパワーを発揮することができるのか、という点については議論がありますが、以下のように、「筋肉」と「腱(筋肉と骨とを結びつけている組織のこと。一番有名なのは、アキレス腱ですね。)」の性質によるものと考えるのが、多数説のようです。

まず、①筋肉は、急に伸ばされると、その筋肉が切れてしまうことを防ぐために、脊髄からの指令によって、無意識的に縮みます(この現象のことを「伸張反射」と言います。)。

また、②腱は、それ自体が「ばね」のような性質を持っていて、伸ばされると、やはり縮もうとします。

このような性質を持つ筋肉と腱が、いったん伸び、それらが縮もうとするエネルギーが、すなわち反動によるエネルギーであって、このエネルギーが、本来の意識的な筋収縮に利用されることで、より強い筋収縮となり、より大きなパワーを発揮することができる、ということです。

3種類のスプリットステップ

では、スプリットステップは、具体的には、どのようなステップなのでしょうか。

実は、テニスにおけるスプリットステップは、すべてが同じものなのではなく、状況によって異なるステップが行われています。

私は、それらのスプリットステップを、次の3つに分類して考えています。

①ラリー型スプリットステップ

②レシーブ型スプリットステップ

③アプローチ型スプリットステップ

これから、それぞれのスプリットステップの違いを説明していきます。

①ラリー型スプリットステップ

テニスで最も多用されるのが、このラリー型スプリットステップです。

主として、ベースラインでのラリーの際に用いられるので、ラリー型と呼んでいます。

この型のスプリットステップは、基本的には、両足が同時に着地するのではなく、右足または左足のどちらか一方が先行して着地します。

着地後に左方向に走り出したいときは右足を先に着地させ、逆に、右方向に走り出したいときは左足を先に着地させます。また、前方向に走り出したいときは、右足または左足のどちらかを体の後方に着地させます。

このステップでは、着地とほぼ同時に進行方向への動き出しが始まります。すなわち、先に着地させた足で地面を蹴ることで、動き出すことになります。

このステップは、着地後に、ある程度長い距離を走る必要があるときに使われることが多いです。

②レシーブ型スプリットステップ

次に、レシーブ型スプリットステップですが、その名の通り、主としてレシーブの際に用いられるので、レシーブ型と呼んでいます。

この型のスプリットステップでは、両足がほぼ同時に着地し、着地の直後に、まず右足または左足のつま先を素早く進行方向に向けます。そして、それとは逆の足を踏み込みながら、ラケットのスイングを行います。

このステップは、着地後の一歩目(つま先を進行方向に向ける動き)を、とにかく早く出し、次の二歩目を出す際にラケットのスイングを行う場面で用いられます。すなわち、相手のボールを打ち返すための十分な時間的余裕がなく、スプリットステップを行ってから二歩以内でラケットをスイングしなければならない時に用いられるのです。

レシーブの時は、相手のサーブが速ければ、走ってボールを追いかけてから打つという余裕はなく、遅くとも二歩目を出した時点でラケットをスイングする必要がありますので、この型のステップが使われるということになります。

roger federer 6

上の写真は、フェデラーが、レシーブ型スプリットステップの着地後に、左足のつま先を進行方向に向けたところを捉えたものです。

③アプローチ型スプリットステップ

そして最後は、アプローチ型スプリットステップですが、これは、サービスダッシュをする場合やアプローチショットを打ってネットに出るときに用いられるステップです。サービスダッシュもアプローチの一種と言えますので、アプローチ型と名付けました。

この型のスプリットステップは、ネットに向かって走っている途中にスプリットステップをするという限定的な場面で使われます。

このステップも、ラリー型と同様に、右足または左足の一方が先行して着地するという特徴があります。

ネットにアプローチする場合は、できるだけ早くネットに近づきたいのですが、スプリットステップで両足を同時に着地させると、ネットへの移動に急ブレーキがかかってしまい、ネットに早く近づけないことになってしまいます。

そこで、スプリットステップの際に、片足ずつタイミングをずらして着地させることで、急ブレーキがかかることを防ぐのです。

例えば、フェデラーは、サービスダッシュのときは、いつも左足で踏み切ってスプリットステップを行い、右足から先に着地させます。

スプリットステップの実例を動画でチェック

それでは、以上の3種類のスプリットステップの実例を動画で見てみましょう。

下の動画は、フェデラーの素晴らしいポイント5つを紹介したものですが、その中の1ポイント目(0:00~0:13)と5ポイント目(1:08~1:20)を見てみてください。

フェデラーのスプリットステップに注目してください。

全画面、かつスローモーションで再生すると分かりやすいと思います(スマートフォンの画面では小さくて分かりづらいと思いますので、可能であれば、パソコンからご覧になってください。)。


2018 US Open Top 5 Points: Roger Federer

1ポイント目(0:00~0:13)

まず、1ポイント目の最初のスプリットステップ(0:05あたり)は、アプローチ型スプリットステップですね。先ほど説明したように、フェデラーは、左足で踏み切ってスプリットステップを行い、右足→左足の順で着地しています。

その次の、ネット際でのステップ(0:08あたり)は、二度続けてスプリットステップをしているので分かりにくいですが、レシーブ型のステップです。両足で着地した後、左足のつま先を左方向に向けています。そして、右足を動かしながら、ボレーをしています。

5ポイント目(1:08~1:20)

それから、5ポイント目ですが、最初のステップ(1:11あたり)は、レシーブの場面ではあるのですが、レシーブ型ではなく、ラリー型のスプリットステップが使われています。左足が右足よりも先に着地していて、まず、その左足で地面を蹴り、次に右足で強く地面を蹴って、右方向に飛んでいます。

レシーブの場面では、通常は、レシーブ型のステップが使われるのですが、この時、フェデラーは、相手(キリオス)のサーブがセンターに来ることを予測していて、右方向にスプリットステップをしているので、左足から着地させた方が、よりスムーズに右方向に移動できるため、ラリー型のステップになっていると考えられます。

そして、その次の1:14あたりのスプリットステップも、ラリー型のステップです。左足を先に着地させ、その左足を蹴りだす力を使って、右方向にダッシュしています。

スプリットステップは小さくなければならない?

スプリットステップの踏み方について、「スプリットステップは、大きく飛んではダメです。ジャンプをするというより、体を沈み込ませる感じです。」と説明されることがあります。

しかし、スプリットステップの目的が、反動を利用することにあるとすると、上の説明は必ずしも正しくないことをお分かりいただけると思います。

ジャンプが小さすぎると、十分な反動によるエネルギーを得ることができないからです。

逆に、ある程度大きくジャンプした方が、反動によるエネルギーも大きく、より素早く動きだすことができるということになります*。

* ただし、これは、「ジャンプが大きければ大きいほど、素早く動き出すことができる」という単純な話ではなく、ジャンプが大きすぎると、スプリットステップによる最大限の効果を得られない可能性があります。これは、難解な議論になりますので、ここでは割愛します。

ただ、大きくジャンプをすることには、スプリットステップのタイミングが難しくなるというデメリットがあります。

つまり、大きくジャンプをすると、体の滞空時間が長くなりますので、相手がボールを打つ時点よりも、かなり早いタイミングでジャンプをしなければならないことになり、タイミングの「ずれ」が生じやすくなります。

また、当然ですが、ずっと大きなジャンプをしていると疲れます。

ですから、結局、小さすぎず、大きすぎない、適切な大きさのスプリットステップを行うべきだということになります。

もっとも、試合の局面によって、スプリットステップの適切な大きさは変わってくることになります。

例えば、ラリー中に、相手がライジングでボールを打ってこようとしている場面では、相手がどのタイミングでボールを打つのかが分かりにくく、スプリットステップのタイミングを合わせることが難しいため、小さなスプリットステップを踏むべきだといえるでしょう。

補足説明

ネットプレーの際のスプリットステップについて

ネット際でのボレーの際は、ラリー型とレシーブ型、どちらも用いられます。

相手が体勢を崩しているときは、こちらに時間的余裕があるので、ラリー型が使われ、相手が万全の体勢で準備しているときは、こちらには時間的余裕がないので、レシーブ型が使われることが多いです。

日本のテニススクールでは、ボレーの際は、レシーブ型スプリットステップを教えることが多いと思います。

皆さんも、「スプリットステップのあと、右足→左足の順で足を出してください(右利きの人のフォアボレーの場合)」と教わったことがあるのではないでしょうか。

これは、もちろん、1つのパターンとして正しいことですが、実際には、ボレーの際に、ラリー型スプリットステップが用いられることもあることを、知っておいてください。

ラリー中のスプリットステップについて

ラリー型スプリットステップに関して、「ちょっと待ってくれ。トッププロは、ベースラインでのラリーの中でも、右足と左足を同時に着地させていることがあるじゃないか。」という指摘をされる方もいらっしゃるかと思います。

これは、その通りであって、実際には、ラリー中のスプリットステップが、両足同時の着地になることも多くあります。

スプリットステップの後に、前後左右いずれの方向にも走る必要がない場合は、どちらか一方の足を他方に先行して着地させる必要がありませんので、ラリー型スプリットステップであっても、両足を同時に着地させます。

つまり、自分があまり動かなくても打てる所にボールが飛んでくるときは、ラリー型スプリットステップをしているけれども(=片足先行で着地できるタイミングでジャンプをしているけれども)、あえて両足を同時に着地させているということです。

レシーブ型スプリットステップについて

レシーブ型スプリットステップが、必ず「つま先を進行方向に向けてから、次に二歩目を出す」という流れになるわけではありません。

例えば、相手のサーブがボディ(正面)に来たときは、レシーブ型スプリットステップを行いますが、この場合、両足同時着地の後は、足を踏み込むのではなく、体を横に逃がしながら、ラケットをスイングする、という形になります。

まとめ

ここまで、スプリットステップを行う目的・理由と、3種類のスプリットの型を解説してきました。

スプリットステップの目的は、パワーポジションの効力を高めることにありますので、まず、パワーポジションを身につけることが大切です。

その上で、どのようなタイミングでスプリットステップをするのか、あるいは、どれくらいの大きさのスプリットステップが良いのか、ということを模索していかなければなりません。

これらの答えは、頭で考えただけで分かるものではなく、「素早く動き出すんだ!」という意識を持って、実践を重ねることで、感覚的に分かってくるものだと思います。

スプリットステップのお話は、以上となります。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

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